KMシールとは、充填剤入り四フッ化エチレン樹脂の二重薄膜の内部に、ガータースプリングを内蔵したシールリップを有し、このシールリップを金属補強環で保持した、外周金属製のオイルシールです。
そのため、軸偏心に対する追随性に優れ、シール対象物、圧力、温度等、全ての分野で最高の機能を備えているオールマイティのシールです。
フッ素樹脂(PTFE)製オイルシールは、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性等、優れた特長を持っていますが、ゴム製オイルシールに比べ、シール性が劣るという、オイルシールとしては致命的な弱点がありました。
PTFEの融点は327℃ですが、溶融粘度が1011poiseと非常に高く、射出成形はできません。従って、圧縮成形といわれる方法でまず素材を成形し、その素材を機械加工することにより、各種製品を製造します。そのため、PTFE表面には必ず加工痕が存在することになり、この加工痕がシール性を不安定にする要因となります。
つまり、リップの表面には、軸方向に対し大小さまざまな角度の加工痕が存在しており、軸を回転させることで、その加工痕によってポンプ作用が発生するため、左右どちらかの回転でオイルは必ず漏れます。
通常、PTFEには耐摩耗性を高めるため、各種充填剤が配合されていますので、加工痕が摩滅するまでには相当な時間が必要となり、その間オイルは漏れ続けることになります。
このPTFE製オイルシールの欠点を解決したのが、KMシールです。
耐摩耗性の高い本リップの内側に、耐摩耗性の低い補助リップを重ね、なじみ(加工痕の摩滅)を速めることで弱点を克服しました。ただし、軸は研磨加工することが肝要です。
二層タイプのKMシールは、右回転、左回転どちらにも対応可能である画期的なシールです。
図-2は、対摩耗性の高い本リップ及び耐摩耗性の低い補助リップが、時間の経過と共に、シール性作用状態が変化することを示す線図です。
A点: | 補助リップの先端のみが軸に接触している運転開始点。 |
B点: | 補助リップ先端の加工痕は摩滅し、本リップ先端と軸が接触し始める点。 |
C点: | 本リップ先端もなじみが進行し、シール可能な領域に入る点。 |
D点: | 補助リップがその役目を終える点。 |
A点からB点までの到達時間は、油膜がまったく存在しない場合には数十秒程度です。
B点からC点までの到達時間は、油膜の存在の有無により大きく異なり、数十時間から数百時間と思われます。
KMシールは、メカニカルシールに代わるシールとして使用が可能です。
メカニカルシールと比べ性能・コスト・メンテナンス性に優れており、同等の耐久性を持っています。
図-6は、メカニカルからKMシールへの代替の適用例です。
オイルシール | KMシール | メカニカルシール | |
---|---|---|---|
性能(漏れ) | 有り | 無し | 有り |
コスト | 低 | 中 | 高 |
取付スペース | 小 | 小 | 大 |
交換・メンテナンス | 容易 | 容易 | 難 |
耐久性 | 低 | 高 | 高 |
KMシールの標準寸法は、ISO並びにJISより採用しており、外径Dは表中他の外径と組合わせることが出来ます。
規格呼称 | d | D | B | 金型 |
---|---|---|---|---|
KM-10×25×7 | 10 | 25 | 7 | 簡易型 |
KM-20×35×7 | 20 | 35 | 7 | ○ |
KM-25×40×7 | 25 | 40 | 7 | ○ |
KM-30×45×7 | 30 | 45 | 7 | ○ |
KM-32×48×7 | 32 | 48 | 7 | 簡易型 |
KM-35×50×8 | 35 | 50 | 8 | ○ |
KM-35×50×8 | 38 | 55 | 8 | 簡易型 |
KM-42×65×8 | 42 | 65 | 8 | ○ |
KM-45×68×8 | 45 | 68 | 8 | ○ |
KM-50×72×8 | 50 | 72 | 8 | ○ |
KM-55×78×8 | 55 | 78 | 8 | ○ |
KM-60×80×8 | 60 | 80 | 8 | ○ |
KM-70×90×10 | 70 | 90 | 10 | ○ |
KM-75×95×10 | 75 | 95 | 10 | ○ |
KM-80×100×12 | 80 | 100 | 12 | ○ |
KM-85×110×12 | 85 | 110 | 12 | ○ |
KM-170×200×15 | 170 | 200 | 15 | ○ |
※KMシールの外径は金属(鉄またはステンレス)ですので、金属嵌合公差が適用されます。
※上記寸法以外の製作については、ご相談ください。
KMシールは通常のオイルシールに比べてリップが疵つき易く、また変形を起こし易いので、組付けに当たってはリップに絶対疵をつけないように取り扱ってください。また、保管は包装したままで行なってください。針金や紐等を通して保管するのは絶対に避けてください。
KMシールのハウジングは、通常のオイルシールの場合と全く同じで、内圧の高い場所、振動の特にひどい場合等では図1のように抜け止めを設けるか、またはスナップリング等による抜け止めを行なう必要があります。
また、ハウジングの寸法公差はJIS B0401のH7~H8に準じ、シールが挿入し易いように約1.0~1.5×30°の面取りを行なってください。
KMシールのリップは無理をしないことが肝要です。絶対にリップを疵つけたりカエリを起こさないよう必ず挿入治具を用いるか、図2のように軸端に充分な面取りを設けてください。
また、スプライン・キー溝がある場合には、専用の挿入治具(図3)を使用するか、カバーを用いるかしてリップを完全に保護できる方法を採用してください。
軸端に大きい面取りが不可能な場合は、KMシールの挿入治具を図3により作成のうえご使用ください。
軸径dの区分 (mm) |
図-8の面取り | 図-9の面取り | 外径C (mm) |
||
---|---|---|---|---|---|
A | B | A | B | ||
25未満 | 1.5 | 2.0 | 2.0 | 8.0以上 | d+0.5 |
25~24 | 2.0 | 3.0 | 2.5 | 10.0以上 | d+0.5 |
64超過 | 2.5 | 4.0 | 4.5 | 16.0以上 | d+1.0 |
※KMシールは、殆んど万能なシールですが、用途に応じた使い分けにより、必要にして充分なシールの選択をおすすめします。
※シールの選択については、弊社技術部にご相談くださるようお願いいたします。
※本資料に記載の内容については、性能向上のため、一部お断りなく変更する場合があります。